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折れない信念で挑戦を続ける
株式会社タイミー代表取締役 小川嶺さん

今回のTIBプレミアムメンタリングのメンターは、株式会社タイミー代表取締役の小川嶺さん。公募で選ばれたメンティーは、「赤ちゃんが泣いている理由が分かるAIを搭載したアプリを開発」した株式会社クロスメディスンの中井さんと、「小売業界特化のAIスタートアップ」を運営する株式会社APORONの草林さん。

(左から)草林さん、中井さん、小川さん
(左から)草林さん、中井さん、小川さん

メンティー2社が自社の活動をプレゼンし、悩みを直接質問する形式で進められた。スキマバイトアプリ「タイミー」で、スポットワークのマッチングという新たな価値の社会提供に取り組んでいる小川さんは、「起業家としての覚悟」と「サービスの利用者を深く深く見ること」の大切さを伝えていた。

プレミアムメンタリング後のインタビューでは、起業の初期段階で集中すべきことや、起業家に必要な資質などについて語ってくれた。

信念を問う最初の質問 ― 「なぜこの事業をやるのか」

『なぜ、この事業をやろうと思ったの?』
メンティーのプレゼンを受けて、小川さんは、この質問からやり取りを始めた。

メンティーの中井さんに質問する小川さん
メンティーの中井さんに質問する小川さん

「(メンティーがプレゼンしてくれた事業は)社会的な意義はとてもあると思うけど、すごく儲けるにはパワーが必要そうなビジネスモデルに見えたので。」
「人間って、儲かるものには飛びつくものなのですが、そうでないものに情熱を注げるというのは何かしらの思いが本人にあると思うんですよ。だから、聞いたし、その部分を聞けてよかったですね。やはり、アイデアで終わるのか、本当に自分の人生をかけてやりたいことなのかで大きく違ってくると思います。」

小川さんは、大学時代に起業したアパレル事業で挫折した経験がある。その経験から、『心の底からやりたい』『この負を解決したい』と思える領域で勝負することの重要性を強く実感している。

「新規事業の成功率は、『千三つ』(せんみつ)と言われたりしていますけど、起業プランに、投資家が投資したということは、当初は何かしらの勝算が見えていたはずです。それでも、成果が出ない、事業が伸びないというのは、起業家の心が途中で折れてしまったり、自信を失ったりということが結構大きな要因なんじゃないかと私は思っています。」

小川さんに事業計画を説明する草林さん
小川さんに事業計画を説明する草林さん

起業で直面する様々な“ハードシングス”を乗り越えるには、「尋常じゃない狂気じみたものがなければいけない」と語る小川さん。信念を持ち、折れない心で挑戦し続ける先に、成功というゴールがあると確信している。

その点、今回の2人のメンティーはどうだったのか尋ねると、「今日、メンタリングした2人は初期設定の部分は、すごく合っている、クリアしていると感じました。だから、彼らに、先輩の起業家を紹介しようと思ったので、それがなかったら(紹介は)しないですね」と、起業の一歩目となる「やり抜こうとする姿勢」は合格点を得ていたようだ。

メンティー2人とも志を高く評価していただきました
メンティー2人とも志を高く評価していただきました

なぜタイミーは成功したのか?-初期段階で一番大事なこと

インタビューでは、創業者の小川さん自らが、タイミーがなぜ社会に受け入れられたのかという問いに答えてくれた。

「一番大きいのは『時代の流れに乗った』ことだと思っています。人手不足の時にサービスを始めて、そこからコロナが来て、働き方改革で残業禁止や週3・週4出社、在宅勤務が増えて、『余暇時間』が生まれました。そもそも、スキマ時間が生まれないと、スキマバイトサービスは生まれませんからね」

社会の大きな変化が成長の追い風になったことは確かだ。だが小川さんは、それ以上に「初期段階で集中すべきこと」があると強調する。

「サービスの初期段階で一番大事なのは『使ってくれたアーリーアダプターを大事にすること』。これが、全てだと思っています。初期段階はユーザーが少ないので、その人たちがなぜ使ってくれているのかを徹底的に深掘りする。その1人すら深掘りできていなかったら、絶対にビジネスはできないと思っています」
学生としてタイミーを立ち上げた当時は、同世代の学生の気持ちは理解できた。しかし、次に現れたのは主婦ユーザーだった。

「『主婦が使うんだ!』と驚き、なぜ?が自分にはわからなかったので、主婦の方々にヒアリングしました」

実際に耳を傾けると、思いもよらない声が返ってきた。
「子どもを保育園に入れて空いた時間がある。その時間で働きたいけど、パートだと子どもが風邪を引いた時に『ごめんなさい、仕事に入れません』というのがストレスで、なかなか社会に戻れない。だからスキマバイトが良いんです」

この言葉を聞いた瞬間、小川さんは「これはフィットする!」と確信したという。ユーザーのリアルなストーリーに耳を澄ませることで、「ここなら自分たちは価値が提供できる」というポイントが見えてくる。

大きな波に乗ることも重要だが、それだけでは十分ではない。小川さんの強調する「初期段階で一番大事なこと」は、目の前のユーザーを徹底的に理解し、その声をもとに事業を磨き込んでいく姿勢にあった。

小川さんに聞いてみた「目標って必要ですか?」「起業家に必要な資質ってありますか?」

インタビューでは、起業家としての目標設定や資質についても話を聞いた。
起業において目標は必要かどうかと問うと、その答えは明快だった。

メンタリング後にインタビューを受ける小川さん
メンタリング後にインタビューを受ける小川さん

「絶対に掲げた方が良いですよ。明確にね。例えば、1000億円に到達するためにそのためにどういう戦略をいつまでにどういう風にやっていくのか、を話さないと目線が上がっていきません。」

小川さんは、シード期の頃から「時価総額3000億円で上場する」と宣言していたという。3000億円に根拠があったわけではなかったが、自身の中の計算式から「必ず到達する」という確信を抱いていた。現在はおよそ2000億円の時価総額にまで成長しており、コロナの影響で当初の計画から3年ほど遅れはしたものの、このまま進めば掲げた目標を実現できると見ている(本インタビューの実施は2025年8月時点)。

そして、大きな目標を描くことで、出会いをチャンスに変える準備もできるという

「大きなロードマップを書いておかないと、アンテナは張れないんですよ。普段からアンテナを何個張っているか、はすごく重要ですね。そうでないとチャンスを逃してしまうんです」

続いて、起業家に必要な資質についても語ってくれた。

「『巻き込み力』じゃないですかね。どんなサービスも人を巻き込まないと始まらないので、本当に多くの人に教えを乞いながらも可愛がられる能力というのは大事だと思います。特に、学生であればあるほど重要だと思います。人脈も何もないですからね」

『巻き込み力』が重要と語る小川さん
『巻き込み力』が重要と語る小川さん

さらに、未来を語る力の重要性にも触れた。

「もう一つは、『未来が見える』こと。将来こうなるだろうな、という世界が見えて、それを言葉で力強く語れる人、つまりリーダーシップですね。社長はリーダーなので、ビジョンを語り、人を惹きつけ、お金を集めなければならない。だから、話すのが下手な人は成長しないと思っています」

そして、勝ち負けにこだわることも重要な資質だと小川さんは強調する。

「昔は勝ち負けがはっきりしていて、それが良かったのに、今は勝ち負けを曖昧にするのが当たり前になっている。自分は勝負というのはものすごく重要だと思いますし、勝負にこだわらないと日本は世界で勝てないと思います。だから起業家は少なくとも負けず嫌いでいてほしいなと思います」

起業を志す人たちへ

インタビューの最後に、これから起業を志す人たちへのメッセージをお願いした。

小川さん自身は「働く」という分野にスペシャリティを持ち続けてきたからこそ、夢を語り、仲間や投資家を巻き込むことができているという。
「僕は今、『働く』という分野ではスペシャリティを一点持っていると思っているので。だからこそ夢を語れますし、仲間を巻き込める、投資家も巻き込めると思っています。どのフェーズでもスペシャリティは必要だと思います」
「やっぱり『尖がる』こと。何事も本当に1個のことをやりきって、誰よりもそれに詳しくなる、というのはものすごく重要だと思います。例えば、高齢者向けのビジネスをやりたいなら、老人ホームで働くべき、と思います」

その上で、小川さんは、
「現場を知らずに語ることが、一番のリスクになっている時代だと感じています。スペシャリティを持って「ここの領域は俺に任せてくれ」とならないと、もう勝てないくらいマーケットがない。この認識をどこまでみんなが持てるのか、はものすごく重要だと思っています。」と、起業家が道を切り開くための心構えを送ってくれた。