「TIB FAB Makers Challenge2024 成果発表会」ダブル受賞!海を愛する人の命を守るプロダクトの挑戦の7ヶ月
「TIB FAB Makers Challenge」は、ものづくりスタートアップにチャレンジしたい熱量のある方を対象とした、ものづくりシードスタートアップ育成プログラムです。
今回は、2月26日(水)に開催した「TIB FAB Makers Challenge 2024 成果発表会」で最優秀賞と部門賞をダブル受賞した株式会社xerograv.(ゼログラヴ) の岩永様にインタビューを実施。
起業のきっかけからプロダクトにかける思い、TiB FABの活用方法まで、たっぷりお話いただきました。

インタビュイー
岩永 智佳 様
株式会社xerograv. (ゼログラヴ)
代表取締役社長 CEO
ベネッセコーポレーション、ベルリッツ・ジャパンなど教育大手でブランディング、マーケティング、新規事業責任者を歴任。世界の海に潜ってきた経験から、海と地球を守る事業xerograv.(ゼログラヴ) を立ち上げることを決意。DIGITAL FRONTIER GRAND PRIX 2024最優秀サービス賞受賞。
ー 最優秀賞と部門賞のダブル受賞おめでとうございます!今の感想をお聞かせください。
まずは、すごく驚きました。この7ヶ月間、前半はTIB FABでソフトウェアの爆速開発に取り組み、後半はひたすら海での実証実験を重ねてきました。大変なこともありましたが、これまでのプロセスで出会った方々や、海での出来事を思い返すと、プレゼン当日は自然と気合いが入りました。その熱意が伝わった結果として、ダブル受賞ができてとても嬉しく思います。
ー 評価ポイントはどういった点だとお考えでしょうか。
私たちのプロダクトが、実際に現場でどのように受け入れられるかを考え、ユーザーの声を取り入れながら実証実験を重ねることを重視した点だと思います。

"海を愛する人たちの命を守る管制塔を作りたい"
ー では改めて、xerograv.(ゼログラヴ)について教えていただきたいです!
xerograv.(ゼログラヴ)は「海の星、地球」をイメージしたブランドです。海を愛する人とチームの命を守るプロダクトを提供しています。
水難事故による死亡・行方不明率は、同年の交通事故の死亡率と比べても、非常に高い数値です。私自身、ダイバーとして世界中の海を潜ってきましたが、浮上した時にボートがいないというヒヤッとした実体験もあります。実体験も含め、「水難事故を少しでも減らしていきたい」という思いが、この事業の出発点です。
これまでは、ダイバーの位置情報を把握するためには、目視・フロートをあげる・ホイッスルを鳴らすなどの手段しかありませんでした。ですが従来のやり方では、海に流されたり、水中でロストした際に迅速に発見することが困難です。
この問題を解決するべく、宇宙飛行士からアイデアを得ました。宇宙飛行士にあってダイバーにないもの、それは「管制塔機能」です。そこで私達は、最先端の技術を組み合わせてダイバーのための海の管制塔を作ることにしました。
ー 実際にxerograv.(ゼログラヴ)をどのように使用するのでしょうか。
まずダイバーは、私たちのアプリがインストールされたApple Watch Ultraを身に付けます。そして潜る際にアクションボタンを押してアプリを起動します。
アプリはボタンひとつでクイックに起動できます。ウォッチが水中に入ると起動するとEntry(潜水地点)の時刻と座標が自動送信され、 その後センサーを通じて水深・ダイビング時刻・心拍数などのデータを計測します。浮上の際には、Entryと同様にExit(浮上地点)ポイントの時刻と座標が記録され、陸上モードに切り替わります。

一方、管制塔の役割を果たすデバイス側では、事前にシェアされたダイバーの情報を「今・どんな状態で・どこにいるか」のCurrent(現在位置)として確認することができます。
こうして、浮上時にボートがいない・想定時間にダイバーが浮上してこないといった水難事故を防ぐことができます。万が一、ロストした場合にも、118番(海上における事件・事故の緊急通報用電話番号)へ連絡し、救出すべき人の現在位置をデバイスで確認しながら現場へ向かうことができるため、救出までの時間を大幅に短縮することができます。すでにこの機能は海洋の安全を守る各プロフェッショナル組織にテストしていただき、実装済みです。
また、水中で体調不良になった際に備えて、緊急浮上のSOSを出す機能も重要だと考えています。そこで現在は、パートナーと一緒に水中通信の研究開発を進めています。
ー 今までありそうでなかった、素敵なプロダクトですね!
では、どのようなきっかけで起業を決意されたのでしょうか。
私は、社会人向け大学院で経営理論や社会課題、自己実現のマッチングを学び、その後エンジニアスクールで技術を学びました。その期間中に「Why me?」なぜ私がそれをやるか、残りの人生をかけて何をやるかを突き詰める場面が何度もありました。その時、私の心に浮かんだのは「海」でした。
そして卒業制作として取り組んだxerograv.(ゼログラヴ)のプロダクトが3位を受賞したことをきっかけに特許を取得し、開発のための会社を設立しました。またVCプログラムにも採択され、実証実験を支援いただけることになり、 本気でやろうという思いで起業するにいたりました。
TiB FABのようにサポートしてくれる機関があることで、行動し続けられる
ー では今回「TiB FAB Makers Challenge」に参加を決めた理由を教えてください。
私達のプロダクトは、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって新しい価値を創造しています。私はソフトウェアの開発のみを行っていたので、ハードウェアを組み込む場合にどのような資金調達が必要になるかや、事業の座組について理解を深める必要がありました。
「TiB FAB Makers Challenge」のプログラムでは、ものづくりスタートアップとしての経営視点を学べる機会が提供されることを知り、参加を決めました。
ー このプログラム期間中にどのような点で苦労されましたか。
限られたリソースの配分とプログラムの成果をどこに置くかです。水中通信の研究や海洋の安全を守る各プロフェッショナル組織と連携した実証実験が同時並行で進む中で、今何を優先するべきかとても悩みました。
結果的に、ハードウェア開発の優先度を一旦下げて、ソフトウェア開発を爆速で仕上げ、海での実証実験を行うことを選択しました。そして2月のプレゼンでは、ハードウェアも含めた将来構想を明らかにすることをゴールにしました。
ー 沢山悩まれることもあった中で、どんな気付きがありましたか。
とにかく行動することですね。11月、12月は海で毎週のようにモニター会を実施し、いただいたフィードバックをプロダクトの向上に活かすという作業を繰り返しました。結果、3月に海洋の安全を守る各プロフェッショナル組織と連携した実証実験も決まりましたし、行動することの重要さに気付かされた7ヶ月間でした。
また、TiB FABやVCなど、サポートしてくださる機関のおかげもあり、ここまでやってこれました。そして一緒にがんばる仲間がいること、何よりお客様がこのプロダクトを待ち望んでいることが嬉しくて、今も行動し続けられています。
ー 「TiB FAB Makers Challenge」に参加したことで、得られた学びをお聞かせいただけますか。
私たちの場合は、ソフトウェアとハードウェア、そして通信の技術を組み合わせることでやりたいことを実現できる世界です。そうした中で、全体のフレームワークやレイヤー構造、それに関わる人、私たちが担う部分と協業先を見つけて連携する部分がどういうプロセスで分かれていくのかという、経営者の視点は非常に勉強になりました。

ー 今後のxerograv.(ゼログラヴ)の展望を教えてください。
ビジネスの観点では、資金調達を目前に控えています。誰が価値を認めお金を払うのか、そしてプロダクトが持続的に成長するのか、そういったビジネスモデルの検証フェーズに入っています。
今回最優秀賞をいただいたことが大きな自信となり、先行モニターの募集を開始しました。実際にユーザーが価値を感じ、見込み顧客が見えた段階で、シードの資金調達を目指していきたいと考えています。
開発観点では、バイタルデータを活用した水難事故の防止機能実装に向け、開発を進めています。実証実験を通して、実際の救命現場において、私たちのアプリでさまざまなバイタルデータを計測できることが、役に立つと気付きました。
ですので、海が人体に与える影響についての研究を進め、水難事故の救命率向上に繋げられればと考えています。
ー これからの広がりもとても楽しみです。
今後は、TiB FABをどのように活用されていく予定でしょうか。
プレゼン後、たくさんの方からお声がけいただいて、関係者をお繋ぎいただいたことがとても力になりました。そういったコミュニティづくりという観点からも、TiB FABに所属しているメリットをパートナー拡大に活かしていきたいと思います。
また、今期はハードウェアの部分が作りきれませんでした。例えば、TiB FABにある3Dスキャナーを活用して海のマップを作ったり、光学スキャニングを使ってサンゴの状態変化の定点観測を行ったりしていきたいです。

※内容・インタビュイー・所属は2025年4月現在のものです。